ろうあ者が勤務する工場で働くスヴェタは、突然リストラの対象とされてしまう。家のローンに苦しむ彼女は神をも恐れぬ行動に出る…。
ほぼ全編が手話で進行し、生きるために手段を選ばないスヴェタが鮮烈なインパクトを与える問題作である。聴覚障害者であるスヴェタが現在の生活を築くためには健常者の数倍の努力を要したはずであり、それが危機に面したならば対抗手段も選ばない可能性もある、というのが監督の見立てである。映画史上でも稀に見る強烈なキャラクターであるスヴェタは、悪女なのかサバイバーなのか。社会が犠牲者を生む状況で善と悪の境界線はどこに引かれるべきなのか、映画の問いかけは深い。斬新な物語をリアリズム演出でスリリングに語るイサバエヴァ監督は、カザフスタンを代表する監督のひとりであり、前作『わたしの坊や』(15/東京フィルメックス出品)では母に死をもたらした男を殺す少年を描き、善悪の境を見つめる姿勢が継続している。本作は、スヴェタ役をはじめすべて実際のろうあ者が演じている。
職を失いかけ、アパートまで失いかけた、聴覚障害者スヴェタが、子供たちの将来を第一に考え、手段を選ばず、行きて行くために考えた方法とは?
リアリズム演出で、ストーリーに引き込まれて行く魅力的な作品だ。
スヴェタ役はじめ、ろうあ者の役は全て実際のろうあ者が演じている。
ろうあ者視点の演出がろうあ者理解を促してくれる。